21日から始業式、入学式、分散登校が予定されています。そこで、この機会に、理科の知識を交えながら感染を防止するための心構えをあらためて確認しておきましょう。
Q:COVID-19の主な感染経路は?
A:「飛沫感染」と「接触感染」
Q:「飛沫感染」を防ぐには?
A:いわゆる「三密」を避けることが大切! これは皆さん知っていますね。
また、ソーシャル・ディスタンス(Social distance)=約2m 離れることを心掛けることも大切ですね。
WHOの報告によると、5分間の会話で1回の咳と同じくらい(約3000個)の飛沫が飛ぶそうです。
Q:「接触感染」を防ぐには?
A:①何かに触れた手で顔(口、目、鼻など)を触らない。
②何かに触った後はアルコールなどで手を消毒する。または、石けんで手をよく洗う。
③飛沫の付いている可能性のある物を消毒する。
Q:「①何かに触れた手で顔(口、目、鼻など)を触らない」ようにするためにはどうしたらいいでしょう?
A:触らないように意識する。マスクをする。
マスクの着用には、飛沫を拡散しないことのほかに、顔に触らないようにする効果があります。
YouTubeの動画を参考にしてフェイスシールドを作ってみました。
Q:なぜ、「②何かに触った後はアルコールなどで手を消毒する」ことが有効なのでしょう?
A:COVID-19は、エンベロープ(envelope)と呼ばれる脂質(油のなかま)を主成分とした膜で覆われています。つまり、このエンベロープを壊せばウイルスは除去できるわけです。
それでは、エンベロープのような油のなかまを除去するにはどうしたらいいのでしょうか。
ここで問題になるのが溶解性(溶けやすさ)です。皆さんは、「水と油は混ざらない(分離する)」ことは知ってますね。
また、溶解性には「水の仲間どうしは溶けやすい」「油の仲間どうしは溶けやすい」というしくみがあります。(化学的に言うと、「極性のあるものどうしは溶けやすい」「極性のないものどうしは溶けやすい」となります。)
つまり、物質どうしの溶けやすさには、「似たものどうしは溶けやすい」という大原則があることを覚えておきましょう。
つまり、エンベロープという油のなかまの膜で覆われたCOVID-19を除去するためには、油のなかまを使えば溶かすことができるということです。そこで、一般的に用いられているのが「エタノール」です。
ここで質問です。「エタノール」はアルコールの1種ですが、水の仲間でしょうか?油の仲間でしょうか?
実は、エタノールは溶けやすさという視点でみれば、水の仲間でもあり、油の仲間でもあります。(物質の分類上は、有機化合物ですので油の仲間ですが)
もう少し詳しく説明すると、エタノールはエチル基と呼ばれる疎水基(極性のない、油になじみやすい部分)とヒドロキシ基と呼ばれる親水基(極性のある、水になじみやすい部分)をバランスよく持っているため、水にも油(有機溶媒)にも溶けやすいという特徴的な性質を持っているのです。
なお、エタノールのはたらきには、エンベロープと呼ばれるウイルスの外側の膜を壊すことのほかに、油の膜を通過して内側のタンパク質を変性させるはたらきもあります。
※変性とは?
タンパク質が、加熱、強酸・強塩基、有機溶媒(アルコールなど)、重金属イオン(銅イオン、鉛イオンなど)などの作用により、凝固・沈殿すること。タンパク質の立体構造が変化することにより起こり、いったん変性したタンパク質は、元の状態に戻らないことが多い。例えば、卵→ゆで卵の変化は、熱によるタンパク質の変性である。
Q:なぜ、「②何かに触った後は石けんで手をよく洗う」ことが有効なのでしょう?
A:セッケンが、COVID-19を除いてくれる仕組みについて触れます。
そもそも洗濯の際に、なぜ、洗剤を入れるのでしょうか?
例えば、汗に含まれる塩分は、もともと水に溶けやすい物質ですから、洗剤を使わずともある程度除くことができますね。
しかし、皮脂成分(油のなかま)などの汚れは、水に溶けないので、うまく除くことができません。そこで、登場するのがセッケンです。
セッケンは、界面活性剤※ですから、エタノールと同様に、疎水基と親水基の両方を持っています。そこで、図にあるように、油汚れとセッケンの疎水基の部分が引き合い、油汚れが繊維の表面からはがされ、やがてセッケンのミセルの内部に取り込まれて、微粒子となって水中に分散します。このような作用をセッケンの乳化作用といいます。
ここまでくれば、なぜ、セッケンで手を洗うとCOVID-19が除かれるのかがわかるでしょう。エンベロープで覆われたCOVID-19は、油汚れと同様にミセルとなって除かれるということです。
※界面活性剤とは?
界面活性剤(surface active agent,surfactant)とは、親水基(水になじみやすい部分)と疎水基(親油基、油になじみやすい部分)の両方を持つ物質の総称である。
Q:なぜ、「③飛沫の付いている可能性のある物を消毒する」必要があるのでしょう?
A:下のCOVID-19の最大残存時間を見ると明らかなように、ウイルスはほっておいてもなかなかなくなりません。そのため、人の手が頻繁に触れるような場所は定期的に消毒をした方がよいということになります。
下の図を見ると、銅(Cu)は他に比べると残存時間が短くなっていますが、これは、銅が殺菌作用を示すからです