”FACT”を知ろう③(校長より) 大学の学費等を考える 

今回は、大学の学費などを中心にした”高等教育に関する話題”です。

大きく伸びていない日本の大学進学率

手始めに日本の大学進学率について調べてみます。
次の図は、文部科学省のWebページから引用した資料で、「18歳人口と高等教育機関への進学率等の推移」(https://www.mext.go.jp/content/20201209-mxt_daigakuc02-100014554_2.pdf)「大学進学率の国際比較」と「世界の高等教育機関の大学進学率等の推移」(https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/giji/__icsFiles/afieldfile/2013/04/17/1333454_11.pdf)です。

 

(最新とは言えない統計データも含まれますが・・・)
ここから見えてくるのは、
「長い期間で見ると日本の大学進学率は上昇した。」
「日本の大学進学率はOECD各国平均に比べると高いとは言えない。」
「先進諸国の多くが、大学進学率を上昇させる中で、日本の伸びは低位。」
といった実状です。

日本は、1968年から2010年までは、国内総生産(GDP)がアメリカに次ぐ世界第2位でした。そして、2位の座は中国に譲ったものの、現在も、GDP世界第3位をキープしています。
成長を続ける日本の姿を見ていた若いころ、私は日本の大学進学率はどんどん上昇していくだろうと思っていました。したがって、現在の状況は意外な結果です。

ここで、国立大学の授業料の推移(下の表を参照してください。)に着目すると、今からおよそ50年前の1971年には授業料が12,000円でした。現代の価値に換算しても約40,000円ですから、この50年の間に、物価の上昇に比べて国立大学の授業料が大幅に上昇したことがわかります。私立大学も、国立大学ほどではないようですが上昇してきました。つまり、かつての日本に比べて現在は、大学進学に係る経済的な負担が増しているということが言えそうです。

国立大学授業料

国立大学授業料
(現代の価値に換算)

2016 (平28)

535,800円 535,800円

2011 (平23)

535,800円

534,327円

2001 (平13)

492,300円

450,032円

1991 (平3)

375,600円

324,016円

1981 (昭56)

180,000円

211,629円

1971 (昭46) 12,000円

38,711円

 

日本が今後、さらに発展していくとともに、私達が心を豊かに生活していくためには”主体的に学ぼうとするマインド”が大切だと思います。

そして、その一つの姿が「リカレント教育」だと考えます。

大人になっても、学び直したい、社会人として取り組んできたことを更にレベルアップしたい、新たな分野に挑戦したいなどの意欲が出てくる時があるはずです。そのようなときに、自分のキャリアをレベルアップするための仕組みが整っていてほしいものですが、残念ながら、日本は海外と比べ、その面では立ち遅れているようです。

リカレント(recurrent)の意味は、「循環や再発」。
リカレント教育は、社会人になった後も、必要なタイミングで教育機関や社会人向け講座に戻り、学び直すことを指します。
元々は、スウェーデンで提唱された言葉だそうです。

また、大学=高校を卒業したらすぐに入るところ、という感覚が日本では一般的ですが、海外では必ずしもそうではないようです。例えば、学費を貯めてから大学へ進学する等ですね。

下表にもあるように、日本は大学入学年齢が最も低い国になっているようです。また、大学進学率は、オーストラリアが90%を超えています。

大学進学率

大学入学年齢平均

日本

51%

18歳

オーストラリア

96%

26歳

ノルウェー

76%

30歳

アメリカ

74%

27歳

オランダ

65%

22歳

ドイツ

42%

24歳

人生百年時代と言われるこれからの時代。大学卒業後に一定期間仕事をしてから、再び大学で学び直す、そのような人も今後は増えてくるのではないでしょうか。

高等教育機関に対する公的財政支出の状況

 

2004年のデータでは、残念ながら日本の支出はOECD各国平均の半分に留まっています。

の日本教育新聞は、次のように報じています。
「経済協力開発機構(OECD)は16日、各国の教育の状況についてまとめた『図表でみる教育2021』を公表した。初等教育から高等教育までの教育機関に対する支出のGDP比が、日本はOECD加盟国の下位25%に入った。2018年は加盟国の平均支出がGDPの4.9%だったのに対し、日本は4%。高等教育以外の教育機関への支出がOECD平均を下回っていた。」

大学の授業料について  ヨーロッパでは授業料無料の国が目立つ

下の表は、文部科学省の「諸外国の教育統計」令和2年(2020年)版をもとに、大学の学生納付金を、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスについてまとめたものです。

授業料等

入学料

備考

日本(国立、2020年)

535,800円

282,000円

日本(私立、2019年)

1,091,910円

248,813円

授業料は911,716円。
アメリカ(州立、2017年)

992,000円

なし

アメリカ(私立、2017年)

3,372,000円

なし

イギリス(国立、2019年)

1,291,000円

なし

授業料はイングランドの上限額。
ドイツ(州立、2020年)

36,600円

なし

授業料はなし。学生バス代および学生福祉会経費。
フランス(国立、2018年)

22,000円

なし

授業料はなし。学士課程に係る年間学籍登録料。
これらの国以外も含めて、国毎の傾向を見るとヨーロッパには公立大学の授業料が無料という国が多いようです。また、ドイツのように国立大学では留学生の授業料も無料になる国や私立大学の授業料が無料になる国もあるようです。特に教育に対する北欧諸国は、いわゆる「大きな政府」を持ち、大学での勉学にかかる費用については、そのほとんどを政府がサポートしています。
国公立大学の授業料については、OECD加盟国のおよそ3分の1が無料にしているとのことです。また、私立大学の場合には、アメリカとアメリカ以外の国の差が大きく、日本の学費はアメリカ、オーストラリアに次いで高いようです。

 

日本は奨学金の制度も十分とは言えない状況

次の図

また、次の二つの図は各国の奨学金の整備状況を示したものです。
日本でも近年、大学時代に貸与を受けた奨学金の返済に苦しむ事例がマスコミで取り上げられ、給付型の奨学金が整備されてきました。しかし、残念ながらまだ十分とは言えない状況があるように感じます。

 

「大学の研究力 再起なるか」の記事より

近年、日本のノーベル賞受賞者の皆さんが、「このままでは日本の基礎研究の分野はいずれ立ち行かなくなる」と口をそろえておっしゃっておられることについては、皆さんもご存知のことでしょう。
目先の成果だけに重点を置いていると、これまで築いてきた日本の基礎研究の強みが失われてしまう。多くの人が危惧していることだと思います。博士課程を目指す大学生が減少していることなども含め、確かなビジョンに基づいた学術振興策が求められているように感じます。

ここで、2022年1月16日の読売新聞「大学の研究力  再起なるか」の記事より、その一部を引用します。
「研究力の代表的な指標である自然科学系の論文数は、1988年から2005年まで日本が米国に次ぐ2位だった。今は首位の中国に5倍超の差をつけられ、ドイツにも抜かれて4位に後退した。注目度の高い論文数の順位も低下している。」
「今世紀に入り、終身雇用だった大学教員のポストを多数、有期雇用に代えた政策も、日本の研究力をむしばんだ。」
「大学院修士課程から博士課程への進学率は、2000年の16.7%をピークに減少し、ここ数年は9%前後。優秀な人材が他の職業へ逃げ出す動きが止まらない。」
「ようやく危機感をもった政府は19年度から科学技術予算を年5兆円超に急増させたうえ、新たな手を打ち始めた。財政投融資などによる10兆円基金『大学ファンド』の設立だ。科学技術振興機構(JST)が近く運用を始め、24年度以降、年3000億円と見込む運用益で数校のトップ級大学を支援する。」
「若手研究者の支援は、19年度にまとめた総合的対策で①40歳未満の教員を25年度までに1割増②博士課程進学者への生活費支給を拡大などの目標を掲げた。20年に始まった目玉策『創発的研究支援事業』は、挑戦的な課題に取り組む若手を公募し、毎年約250人を審査で厳選。何700万円の研究費を7年間支給しつつ、異分野間の交流を促進する。」
「ドイツでは、博士課程は学生ではなく、30万円程度の月給を得る社会人。教授が採用を決め、大学が雇用する。」

人生を豊かに幸せに生きていくための教育制度は?

「教育」の重要性を否定する政治家はいないでしょう。
しかし、現状はどうでしょうか。残念ながら、他国に比べて、大学等の高等教育を受けるための環境が恵まれているとは言えないようです。

何か画期的な手立てを打たない限り日本の少子化に歯止めをかけるのは難しい状況であり、今後、日本の人口減少は着実に進んでいくものと思われます。

そのような中、日本の子どもたちが、社会で豊かに自己実現し、人生を幸せに生きていくためには、一人一人が新しい価値を創造することができる資質や能力を身に付ける必要があると私は思います。そして、そのためには充実した教育が不可欠です。

それらを実現するためには、どのような体制を整備することが望ましいのか、皆さんも考えてみてはいかがでしょうか。

私は、大学等の高等教育も含め、志があればできるだけ国が費用を負担する形で教育を受けられる体制を整備してほしいと願っています。

それは、経済的な理由で進学を諦めたり、子どもを産み育てることを躊躇したりする状況をなんとかしたいからです。

教育格差、人口減少、少子化問題などの課題は、クローズアップはされるものの、解決の兆しが見えていないのが実状です。抜本的な解決策が期待されます。

さらに、将来の展望が開ける形で博士課程まで進み、高いレベルの探究力を身に付けることができる環境が整備されることを期待しています。(ここまで見てきたように環境が整備されている国があるのだから日本にできないわけがないと私は思います。)

そのほうが、新しい価値を創造する人材(人財)も増え、国としての力も強化されるのではないでしょうか。

そのためには、学ぶことは自らの可能性を広げることであり、楽しいことだというマインドを持った子どもたちを増やしていくことも大切だと思います。

また、入試システムや大学教育のあり方なども検討が必要でしょう。

各政党が掲げている公約を調べてみました
1 子育て支援・教育全般に関する公約
2 高等教育に関する公約

ここで、2021年の衆議院選挙において各政党が教育についてどのよう政策を掲げていたのかを、特に高等教育に対する国民の負担軽減の視点で振り返ってみます。(最近は、インターネットで各党の公約等を手軽に検索できるようになっています。自分が注目する政策について、それぞれの政党がどのような施策を準備しているのかを比較してみると、将来、投票する際の目安になるでしょう。)

 

自由民主党

子育て支援・教育全般に関する公約(NHK選挙WEBより):すでに実施している幼児教育・保育の無償化などに加え、さらに財源を確保し、待機児童の減少や、病児保育の拡充、児童手当の強化を目指す。保育人材の確保と保育の受け皿整備を進め、放課後児童クラブの拡充や質の確保を進める。子どもの貧困や虐待対策を強力に推進するほか、ベビーシッターを利用しやすい経済支援を行う。

高等教育に関する公約から:真に支援が必要な所得の低い家庭の子供たちに限って、高等教育の無償化を図ります。このため、必要な生活費をまかなう給付型奨学金や授業料減免措置を大幅に増やします。

立憲民主党

子育て支援・教育全般に関する公約(NHK選挙WEBより):子どもや子育てに関係する国の予算を倍に増やす。そして児童手当の所得制限を撤廃し、中学生までとなっている支給対象を高校生までに拡大する。「出産育児一時金」を引き上げ出産にかかる費用を無償化するなどとしている。

高等教育に関する公約から:
・教育は国が一義的な責任を持つという観点から、国連社会権規約の漸進的無償化を実現するために大学の授業料を引き下げます。
・国公立大学の授業料を半額に引き下げ、私立大学生や専門学校生への給付型奨学金を大幅に拡充します。
・大学運営費交付金については、授業料の値上げ等につながらないよう、維持・増額を図り、大学財政を健全化します。
・貸与型奨学金の返還額を所得控除の対象にするとともに、返還免除制度を拡充します。
・返済中の有利子奨学金の利子分を免除します。
・奨学金を借りている人については、所得に応じて無理なく返済できる所得連動返還型無利子奨学金や、返還猶予制度などをより柔軟に運用します。

公明党

子育て支援・教育全般に関する公約(NHK選挙WEBより):新型コロナウイルスの影響が長期化していることを踏まえ、18歳までの子どもを対象に、1人あたり一律10万円相当を支援する「未来応援給付」を掲げる。住民税非課税の世帯を対象に無償化にしている0歳から2歳までの子どもの保育は、段階的にすべての世帯に対象を広げるほか、「出産育児一時金」の増額も盛り込む。

高等教育に関する公約から:
・2020年4月から低所得世帯を対象に、給付型奨学金と授業料等減免の充実による大学など高等教育無償化が実現しました。家庭の経済的事情に関わらず、希望すれば誰もが大学等へ進学できるよう、年収590万円未満の中間所得世帯まで段階的に無償化をめざします。
・奨学金返還の負担を軽減するため、収入に応じて返済する所得連動返還型奨学金制度を既卒者にも適用できるよう推進します。

共産党

子育て支援・教育全般に関する公約(NHK選挙WEBより):大学や短大などの学費を半額に引き下げ、入学金制度をなくし、給付奨学金の制度を拡充する。私立高校の負担を軽減するとともに、高校教育の無償化を進める。また、すべての幼児教育・保育や、義務教育のもとでの学校給食を無償にする。

高等教育に関する公約から:
・高等教育無償化をめざし、ただちに学費を半額にし、入学金という制度はなくします。
・ただちに授業料を半額にします。
・学生生活を保障するような本格的な給付奨学金制度をつくります。奨学金利用者の半数にあたる75万人に、自宅生4万円、自宅外生8万円を毎月支給する給付奨学金をつくります。
・貸与奨学金はすべて無利子にします。
・奨学金返還の負担軽減をすすめます。
・減免制度、返済猶予、減額期間の上限撤廃などセーフティネットを拡充します。
・すべての奨学金を、返済能力に応じて返済する所得連動型にします。
・20年間返還すれば残額をすべて免除します。

日本維新の会

子育て支援・教育全般に関する公約(NHK選挙WEBより):幼児教育や高校、大学などの授業料の無償化。政府・与党で検討されている「こども庁」は、予算枠を財務省の取りまとめから独立させGDPの一定割合を必ず配分することを定める。出産費用を助成する出産一時金を増額することなどで妊娠・出産への経済的負担を最小化する。

高等教育に関する公約から:
・家庭の経済状況にかかわらず、等しく質の高い教育を受けることができるよう、義務教育の他、幼児教育、高校、大学など、教育の全過程について完全無償化を憲法上の原則として定め、給食の無償化と大学改革を併せて進めながら国に関連法の立法と恒久的な予算措置を義務付けます。
・OECD 加盟国で最下位となっている教育予算の対 GDP 比を引き上げ、教育への公的支出を他の先進国レベルに向上させます。
・教育バウチャー(塾代バウチャー)制度の導入・普及に努め、教育機会を拡大するとともに、多様なプレイヤーの競い合いによる教育の質と学力の向上を目指します。

国民民主党

子育て支援・教育全般に関する公約(NHK選挙WEBより):「人づくり」を最重点政策に据えて、「教育国債」を発行し、教育などの予算を倍増させる。義務教育の対象年齢を3歳まで引き下げて高校までの教育無償化を実現する。児童手当を拡充し、親の年収に関わらず、子どもが18歳になるまで1人あたり月額1万5000円を支給する。

高等教育に関する公約から:
・大学や大学院等の高等教育の授業料を減免するとともに、返済不要の給付型奨学金を中所得世帯にも拡充します。卒業生の奨学金債務も減免します。
・教育や人づくりに対する支出は、将来の成長や税収増につながる投資的経費であり、財政法を改正して、これらの支出を公債発行対象経費とする「教育国債」を創設します。毎年5兆円、10年間で50兆円発行し、文教・科学技術振興費の対GDP比を倍増させます。

れいわ新選組

子育て支援・教育全般に関する公約(NHK選挙WEBより):児童手当の支給対象を高校生まで広げ、金額を倍増する。奨学金の支払いを免除するほか、教育の完全無償化も実現する。教員の数を大幅に増やして少人数学級にすることで、教育の質を高める。

高等教育に関する公約から:
・奨学金徳政令。コロナ危機で、短大生・大学生が退学に追い込まれている。今こそ奨学金返済に苦しむ約580万人の借金をチャラに。
・学費を無償化。幼児から大学生まで、保育・教育は完全無償化。
・なんらかの事情で学びを断念した人が、いつでも学べる機会・学びなおせる機会を保障する。夜間学校や二部授業の復活など。
・OECD諸国では不名誉な最下位(2016年:2.9%)をキープしている高等教育への公財政支出については、最低でもOECD平均の4.0%を上回る規模を確保するため、財政支出(国債発行)で支援します。

社会民主党

子育て支援・教育全般に関する公約(NHK選挙WEBより):奨学金を原則、給付型にして、貸与型の奨学金は例外的なものにする。すでに返済中の奨学金も一部免除する。また、高校の授業料無償化の制度から朝鮮学校を外す差別をやめ、国籍を問わずに子どもたちに学ぶ権利を保障する。

高等教育に関する公約から:奨学金を原則給付型として、貸与型の奨学金を例外的なものにする。すでに返済中の奨学金の一部免除する。

NHKから国民を守る党

子育て支援・教育全般に関する公約(NHK選挙WEBより):子どもが生まれたら、出産した母親に1000万円を支給するといった支援を政府に求める。

高等教育に関する公約から:学生向け政策は特になし。

 

いかがでしょうか。教育振興という視点ではどの政党も力を入れようとしているようですが、政党ごとに力の入れどころが異なっているようです。自分は、どの政党の政策に共感できるのか、考えてみてほしいと思います。